Tomoko's travel

トラベルライター/ジャーナリストの松田朝子が綴る旅の日々。旅すると更新します。

カオスシティ・サイゴン

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こんな言い方をしていいかどうかわからないが、私は

「どこかの植民地(あるいは租界地)だった場所」が好きである。

異国のなかの、さらなる異国情緒は劇中劇でも見ているような不思議な雰囲気。

そんな理由から、サイゴンホーチミンシティ)を訪れた。

しかし、そんな甘い感傷に浸っていては、バイクに跳ね飛ばされそう!

夜更けのタンソニヤット空港に降り立った私は、

到着ロビー(建物の半分はいきなり外である)まで響いてくるバイクの騒音に面食らう。

どこの国でも、到着ロビーにはその国独特のにおいがあるのだけど、

ここはもう、いきなり「街のにおい」だ。

バイクも凄いぞ。

2人、3人のりは当たり前。

なかには一家4人くらいで1台のバイクにまたがっている。

それもハーレーとか、大型のバイクではなく、

原チャリくらいのものがほとんど。

おいおい、そんなバスすれすれに寄ってこないでよ、ぶつかるよ!

車は常に「暴走族に囲まれてしまった四輪車」の状態で、

のろのろ走るしかない。

サイゴンの街は、バイクの音で更け、バイクの音とともに明けるのだ。

日が昇り、私たち(私と娘)を含めた36人のツアーは、お決まりの観光コースへ。

たまにはこういった「おのぼりツアー」も面白い。

まして初めて行く場所は、そっちのほうが望ましい。

昼間はさらにバイクがたくさん。

バスの窓からぼんやり街の景色を見ていると、

バイクの陰からは、笠をかぶって天秤棒をぶらさげた行商のオバサンの姿や、

道路に置かれたチャチな椅子とテーブルで、麺かお粥みたいなものを食べている

街の人たちなどが、目に映る。

雑然としているけど、虚飾のないむきだしの生活が逞しい感じだ。

そして今だ電線がはりめぐらされた空に向こうには、

19世紀末あたりに建てられた、フレンチコロニアル調の建物が点在する。

フランス統治時代の影響を色濃く残すサイゴンは、建物ばかりでなく、

街なみも、ロータリーを中心とした放射状の通りと、碁盤状の通りとが重なり合って

パリの街を思わせる。第1区~12区なんていう「区分け」も限りなくパリだ。

ヨーロッパ ミーツ アジア な場所は他にもあるけれど、

サイゴンには、それプラス「ベトナム戦争」の爪あとも残る。

あの長い戦争の終結からは、まだ31年しかたっていないのだ。

サイゴン陥落」の舞台となった統一会堂の地下には軍事施設が当時のまま残り、

郊外クチには、ベトコンの要塞、地下トンネルが戦争の凄さを訴えている。

このベトナム戦争を別としても、ベトナムの歴史は、戦争の歴史とも言われている。

地形的にも、南シナ海沿岸をぐるりと囲み、たしかに標的にはなりやすいだろう。

他の国になぞられたり、はたまた攻められたり、というのがベトナムだ。

カオス(混沌)な雰囲気は、そんなところからもくるのだろう。

でも、そんなカオスをプラス変換しているのか、こっちの人はパワフルだ。

ちょうど、高度成長時代の日本みたい。

メタボっている人はいないし、(そういえばスーツにネクタイを見かけない)

男も女もなりふり構わず働いているし、

人はみんな親切だし、

立小便は見逃してあげよう。(爆

でも、開発が進むベトナムはきっとあっという間にきれいになって、

「生きている実感」のない街になっちゃうのかもしれない。

フランス統治時代の遺構は残ったとしても、そこに「なんでもあり」の

人のくらしがなければ、サイゴンホーチミン・シティ)じゃなくなってしまう。

ゆっくりオトナになりなさい、じゃないけれど、そんな言葉を

かけてあげたいのが、私が見たサイゴンである。

aisbn:4426751160旅先だとどうして彼は不機嫌になるの